コンプライアンスとリスク管理について(2)
中小企業診断士 TY
前回(20.07.27)はコンプライアンスとリスク管理を行うための5つのポイントについて書きました。今回も前回に引続きコンプライアンスとリスク管理について書きたいと思います。
企業不祥事への対応のための概念
前回の原稿をBAKのホ−ムペ−ジの管理者に送ると、「コンプライアンスとリスク管理は異なるものであり、なぜ1つにして書くのか」という質問を受けました。私は、「診断士の視点」に文章を書くにあたり、以前からリスク管理について関心がありましたので、リスク管理の観点から企業の不祥事の対応について書こうと思い原稿を書き始めました。しかし、最近の米卸、料亭、食肉加工等における不祥事を見てもお解かりのように、多くの場合、企業のトップが取引先や消費者を裏切る不正な行為を行うように指示を行っています。そのため、いくらリスク管理体制を構築しても、企業のトップが不祥事を指示すればどうしょうもありません。また、それらの不祥事では、部下達は不正な行為をやめたほうがよいと企業のトップに対して諌言を行っています。しかし、トップの意向・命令には逆らえず、やむなく不正な行為を続け、最終的にはそれらが発覚するという結果となっています。このように、リスク管理だけでは不祥事を防止することは難しく、(それらの企業がリスク管理を行っていたかどうかはわかりませんが)コンプライアンスの考え方も必要ではないかと思い、コンプライアンスとリスク管理という2つの言葉を並べました。
ところで、コンプライアンスとリスク管理という言葉は、その対象や内容についていろいろな考え方があり、人によって異なった意味でその言葉を使っています。また、コンプライアンスやリスク管理に似た概念として、コ−ポレ−ト・ガバナンス、CSR、内部統制等もあり、非常に分かりづらいのが現状です。これらの概念は、1990年代後半に、バブル経済の崩壊により日本経済が悪化し、日本的経営が行き詰まるとともに、いろいろな企業不祥事が発生したため、その対応として欧米の概念が導入されたものです。そこで、それらの定義付けとまではいきませんが、その概念について何回かに分けて書いてみたいと思います。しかし、このホ−ムペ−ジは、中小企業診断士が、主に中小企業の方を主な対象として運営しています。学者や研究者ではありませんので、難しい定義付けよりも、実践に役にたつものでなければならないと思っていますので、その視点を忘れないようにしたいと思います。
企業経営の「アクセル」と「ブレーキ」
今回の残りで、「企業にとってコンプライアンスやリスク管理とはなにか」について書いてみます。結論から言うと、コンプライアンスやリスク管理にしても、コ−ポレ−ト・ガバナンス、CSR、内部統制にしても、それらを一言でいえば、企業経営の「ブレ−キ」です。企業は、売上を伸ばし、利益をあげていくためには、製造、営業といった業務に力を注いでいかなければなりません。それらは企業経営の「アクセル」にあたります。アクセルを力強く踏んで、企業という自動車を走らせなければ売上も利益も生まれてきません。しかし、アクセルを踏みすぎると自動車は暴走し、不幸な結果になってしまいます。そのため、自動車のスピ−ドを落とすためにブレ−キが必要となります。また、もし自動車にブレ−キがないと、スピ−ドを落とすことができないため、どうしても慎重な運転となり、思い切ってアクセルを踏むことができなくなります。ブレ−キがあるからこそ、安心してスピ−ドを出すことができます。このように自動車にとってブレ−キは不可欠なものですが、企業経営でも同じことが言えます。企業経営におけるブレ−キ役が、コンプライアンス、リスク管理、コ−ポレ−ト・ガバナンス、CSR、内部統制です。その対象や切り口の違いにより、コンプライアンス、リスク管理、コ−ポレ−ト・ガバナンス、CSR、内部統制と言ったりしているだけだと思っています。
コンプライアンス・リスク管理への疑問
また、コンプライアンス、リスク管理については、次のことがよく言われています。
「コンプライアンス、リスク管理は大企業のやることだ。中小企業はする必要がない。またそんな余裕はない。」「コンプライアンス、リスク管理は欧米の概念であり、性悪説にもとづいたものである。日本は基本的に性善説であり、コンプライアンス、リスク管理を導入してもうまくいかないのではないか。逆に、コンプライアンス、リスク管理を行うことは、企業の活力を削ぐことになるのではないか」
中小企業にとってのコンプライアンス・リスク管理の必要性
前者の意見ですが、最近は新聞やテレビに企業の不祥事に関するニュ−スが出ない日がないくらいいろいろな事件が発生しています。しかし、あるリスク管理の専門家によれば、不祥事は昔からあり、決して最近になって増えたものではなく、その内容も昔の方がひどい場合が多いとのことです。つまり、昔から不祥事はありましたが、あまり発覚や表面化することはなく、もし発覚したとしても大きなことにならずに済んでいたということです。しかし、現在は、内部告発等により不祥事が発覚する可能性が高くなっています。また、社会の不祥事に対する意識も厳しくなっており、不祥事の発生は企業の命取りになります。不祥事が発覚した場合、大企業であれば体力もあり、なんとか企業を存続させることができるかも知れません。しかし、中小企業の場合はそうはいきません。いや、大企業や名門企業と呼ばれる企業でも不祥事により瞬く間に破綻した事例は多数あります。コンプライアンス、リスク管理、コ−ポレ−ト・ガバナンス、CSR、内部統制等は中小企業には関係がないのではなく、中小企業だからこそ必要なものです。
コンプライアンス・リスク管理と「性弱説」
次に後者の意見ですが、確かにこれらの概念はもともと欧米のものを日本にとりいれています。そのため、日本の実情には合いにくい部分もあります。しかし、日本の状況も変化しています。労働の流動化、ITの発達、価値観の多様化等により、従来のような性善説だけでは対応できなくなっています。また、人間は本来弱いものです。そのため、つい怠けたり、誘惑に負けてしまうことがあります。これは性悪性ではなく性弱説と言われています。そのためなんらかの形で自分自身をコントロ−ルしたり監視をする必要があります。企業も同様です。企業経営を規律させるのがコンプライアンスやリスク管理です。なお、一部ではコンプライアンス、リスク管理について過剰反応をしているケ−スもあります。しかし、当然ながら、普通の自動車にF1カ−のブレ−キは必要ありません。その自動車(企業)にあったブレ−キ(コンプライアンス、リスク管理)があれば十分です。いかに、自社の実態にあったコンプライアンス、リスク管理を構築するかがポイントとなります。
以上が私の企業におけるコンプライアンスとリスク管理に対する考えです。次回から少しづつそれぞれの概念について見ていきましょう。
