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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

これからの事業継続
                             中小企業診断士 萩原正五郎

はじめに

 
ここでは、行政、公的機関等による「事業継続」について一般論を整理するとともに、東日本大震災等以降の環境変化、ならびに内閣府事業継続ガイドライン改定について概要を紹介します。さらにガイドラインでも述べられていますが、今後の事業継続のキーワードにもなる「連携」と「人材育成」について、私見も含めポイントを解説します。


事業継続とは何か

 我々の会社は日々、いろいろな取引先等と結びついて事業を成り立たせています。もしその関係が何らかの原因である日突然遮断し、それが続けば忽ち、その会社は危機に見舞われます。そうなれば事業が止まり、収入がなくなるだけでなく、他の取引先や得意先にも迷惑をかけることになるのです。したがってできるだけ早く復旧し、事業を再開する必要があります。つまり事業を継続していく手段を普段から準備しておく必要があるのです。

 事業継続とは「企業・組織が災害などを含む何らかの原因で被害を受け、あるいは必要資源の確保が困難になっても、重要業務を中断が許される時間内に復旧させること、ただし中断が許されないものは中断させない」取組みであります。事業継続計画(BCP)はその事業継続を達成するための計画書であり、継続や早期復旧を実現する体制、対応手順、被害やその影響を小さくする事前対策等で構成されます。

事業継続を考える上で重要な点は、事業継続は経営上の様々な危機を乗り切るため、経営の根幹である経営資源すべての存在を扱う経営戦略の一つであるということです。したがって有事の際は現地の復旧のみでなく、様々な状況に合わせた複数の継続方法、すなわち「事業継続戦略」を持つ必要があるのです。

事業継続ニーズの高まり

 近年、事業継続のニーズが高まっているのは、企業経営に影響を与える自然災害、事故やテロ、新型インフルエンザ等の感染症、システム障害等が大型化、複雑化、多発化していることがまず直接的な要因として挙げられます。さらに企業のコンプライアンス、CSR等の社会的要求が高くなり、地域、株主、取引先等のステークホルダーに対してもリスクへの経営姿勢、経営戦略を明快に示していく必要性もあります。しかし何といっても最も大きな要因は自社単独での復旧の困難さ、サプライチェーンの拡張・延長等から来る企業間取引の重要性にあると思われます。つまり会社の事業活動範囲の拡がりに伴い、緊急時に自社だけでコントロールできない状況が事業継続のニーズをさらに高めているのです。

行政による事業継続ガイドラインの見直し

 一昨年の東日本大震災やタイでの水害等では、事業継続に取り組んでいるかどうか、対策を立てているかどうかにより、その後の復旧にかなりの差が見られました。また自社だけではなく、業界やサプライチェーンを巻き込んで取組むことや、想定外へのリスクにも対応できる事業継続の重要性も明らかになりました。これらを背景に、近年の国内外事業継続動向や災害の教訓を踏まえて、平成258月内閣府から事業継続ガイドラインの改定版が出されました。

 以下に主な改定内容を紹介します。@単なる文書化が目的とならないよう、従来BCPに含めて説明されていた「平常時からの取組(BCM)」を経営戦略に盛り込むように強調するとともに、構成の見直し。A様々な企業で平時から取り組み易くなるよう、教育・訓練、見直し・改善等に関する内容の充実、項目の流れの分かり易さの追求。B幅広いリスクに対応するための考え方を盛り込み、さらにはサプライチェーン途絶の経験をもとに、取引先、業界団体、地域関係者等の様々な連携の重要性も踏まえた代替戦略や対策に関する内容の充実。C平時からの経営者の関与や災害時のリーダーシップの重要性について強調。

 以上が概要ですが、特に重要と思われる「連携」と「人材育成」について焦点を絞り、解説したいと思います。

連携による方向

ガイドラインで述べている取引先、業界団体、地域関係者等の連携について、各々のポイントを検討してみましょう。

○取引先との連携

供給先、得意先等の取引先との関係は、まさに事業継続させるための直接的な連携になります。まずサプライチェーンが途切れないようにすること、そしてそれが止まると何が起き、どうなるかを十分にイメージし、認識を共有することが重要です。お互いの会社が同様にどの程度の課題を持っているか、お互いの状況を理解しながら連携し、検討していかなければ事業継続はできないのです。

○業界団体の連携

中小企業はまだまだBCPを策定していない会社が多いのが現状です。それにはまず業界団体の組合等が率先してBCPを策定するのが重要です。そしてその検討を踏まえながら、共通の業務内容、企業課題を抱えている組合員と連携し、さらに組合員同志が勉強しBCP策定に取り組んでいく方向が現実的でより有効と思われます。さらに広域的に業界団体として連携していくことも必要でしょう。組合のBCP策定には、全国中小企業団体連合会「組合向けBCP策定運用ハンドブック」が参考になります。

○地域関係者、特に企業と行政の連携

地域連携では、地域との共生、地域貢献等のきれい事を並べていても現実的ではありません。お互い関係者の直接的なメリットや連携することによるWINWINの関係を認識できなければ絵にかいた餅に過ぎません。現実的なものにするためには、具体的な連携イメージを共有化し、互いに目指すべき行動を理解することです。つまり@お互いの信頼関係、A同じ言葉を使う標準化、B同じ情報を持つ情報共有・情報管理が必要になります。そのためには、平常時から意見交換、訓練を通して、顔の見える関係を作ることから始めるしかありません。

人材育成

 BCPを策定する視点は、どうヤって策定を進めるのかではなく、なぜ取り組むのか、何を目的にするのか、から進めるべきです。つまり事業再開を如何に速めるかが目的であり、そのために何をするかであります。ハード対策はもちろん必要ですが限度があります。より重要なのは、ソフト対策つまり、何のためのやるかのミッションを決め、そのための柔軟なルールを共有化することです。そのために従業員全員に対して訓練等により危機に対応する能力つまりスキルを向上させることが最も重要なことなのです。供給と需要のバランスが崩れたとき、いかに早く最適化できる能力をつけるかであり、このことは平常時にも活用できる能力であります。教育・訓練により、このような人材育成を目指していただきたいと思います。

  −参考資料−
・内閣府「事業継続ガイドライン」

・東京商工会議所「事業継続計画策定ガイド」
・事業継続推進機構「標準テキスト」

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