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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

機械との競争
                                       千里

雇用環境の将来の変化
 最近、車の自動運転を各社が積極的に開発して、2020年には実用化されると聞く。人工知能の発達は素晴らしいもので、人々の生活を豊かにしてくれるものと、ますます期待されている。しかし、一方、人工知能の発展に伴い、10年後には人間の仕事がなくなるとの記事も出ている。英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が人口知能の発達で今後置き換えられる職種はどんなものがあるかと試算した結果、医師や小学校の先生は残るが、電話営業やタクシー運転手などは人工知能に代替されるという。単純作業はロボットなどの人工知能に置き換わり、人間に残る作業は創造的な知的作業に限られ、労働市場の大きな変化が進みつつあると警鐘を鳴らしている。



機械が仕事を奪っている
 エリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィー共著の「機械との競争」を読んだ。著者らはこの2010年以降、景気は回復基調であるが、デフレが続き、雇用が進んでいない状況について産業革命の歴史を調べ解析を行っている。
 機械と人間との仕事の分配は第一次産業革命から始まった。人力が中心であった農業生産が蒸気機関の開発で人力が機械に置き換わり、多くの農民が仕事に溢れ、都市に集中した。彼らは、機械によって仕事を奪われ難民になったかと思えば、実際には機械を使う工場に吸収され、新たに作られた産業分野を支える力になっている。第2次産業革命でも、IT産業は人間を単純労働から解放し、知的な三次産業の発展に寄与した。
 このような過去の経験から、多くの経済学者は景気が回復基調にもかかわらず雇用が進んでいない現状を一時的な現象ととらえ、人工知能の発展で一時的に労働者の仕事は奪われているが、また新たな産業が生まれ、労働者を吸収するので「それは杞憂である」と言っている。
 しかし、「機械との競争」の著者らは現在のこのような現象を解析して過去の経験が通用しなくなってきている点を指摘している。なぜなら、変化速度が指数関数的に増加しているため、われわれの社会が追従できず、大きなひずみを生じさせている。すなわち、単純作業を行う多くの人は仕事を機械にとってかわられ職を失っている。従来では新たな産業の発展は新たな雇用を生み出すという流れであったが。2010年以降は人の作業がどんどん機械に置き換わっている状況であるが、その変化があまりにも速すぎて新たな産業を生み出す時間的な余裕がなくなっている。このため、市場は発展しているが雇用が伸びない、賃金が上がらない状況が続いていると解説している。この大きなうねりを避け、人間として生きるためには、機械にはできない創造的な仕事や人と人との関係で成り立っているサービス業にシフトすべきと結論付けている。

製造業の創造性
 しかし、最近の製造業を見ていると、創造的な仕事をしているだろうか。機械を使いこなすこと、運転マニュアルを熟知することが仕事であり、新たな製品を生み出す発想力が不足しつつある。他社との競争に勝つためには相手より性能の良い機械を導入してその使い方をマスターすることが必要と考えられている。熟練工が退職でいなくなり、性能の良い加工機械を購入するような考えがある。熟練工がなぜ熟練工なのか、技術を持っているから熟練工なのか、いや、そうではないと思う。彼は学び力を養い、「なぜなぜ」と自分の専門を突き詰め、自分なりの理論(方法)を作り出したから熟練工になりえたのだと思う。 技術伝承といわれ、基礎知識、ノウハウを教えているがこれではマニュアルを教えているだけで、技術は伝承されるが、それを生み出した発想は伝承されていないのではないだろうか。改めて、「技術は盗むもの」という言葉を考える。この言葉は表面的な技術を習得するのではなく、熟練技術を生み出した元にある発想や人としての生き方を含めて伝承しないと本当の技術伝承にはならないということを伝えようとしているのではないだろうか。

ホーキンス博士のSF
 昨年末に日経新聞に世界的な宇宙物理学者であるホーキンス博士が人工知能の発達は人類を危機的な状態に陥れるとの警鐘をならした。宇宙の創生期の話かと思ったが、記事を読むと、博士が懸念されているのは、人間の優位性である「想像力」までもが人工知能に奪われてしまうことである。人工知能の発達は指数関数的に加速しており、脳の機能を代用できるようになりつつある。いずれ、人間の生物として覇者になった「想像力」を機械に奪われる時期が来ると予想されている。
 科学小説のような話であるが、世界の最先端の科学の分野で創造的な活動をされている博士からの言葉に不気味さを感じる。ただ、人類に役立つ物、幸せにするものを創造することは人間にしかできない能力だと思う。このためには、何のために働き、何のために生きるかを考えるところが大切になるのではないだろうか。


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