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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

軽減税率の問題点
                               中小企業診断士  TM


はじめに


いよいよ10月1日から消費税が増税される。これまで2度延期されたことから、今回も延期されるのではないか、という見立てがあったが、どうやら予定通りに実施されそうである。内容としては、税率が8%から10%に上がるのだが、もう一つ大きな変更がある。それは、軽減税率の導入である。
 
 なぜ、軽減税率が導入されるのかというと、その目的は「逆進性の緩和」だと言われている。消費税は消費に対して課税されるため、収入が少ない人ほど、収入に対する消費税の割合が大きくなる傾向があり、これが逆進性である。生活必需品である飲食料品や新聞に軽減税率を導入すれば、逆進性が緩和されるというのであるが、本当なのだろうか。そもそも生活必需品は高所得者も購入するのであるから、軽減税率によって彼らも恩恵を受けるわけであり、逆進性の緩和につながるのかは、非常にわかりにくい。むしろ、所得税の累進税率変更や低所得者への直接給付の方が逆進性の緩和に効果があると思われる。このように考えると、何のために軽減税率を導入するのかがよくわからないが、はっきりしていることは、これにより多くの問題を引き起こすということである。具体的には以下の通りである。
 
問題1.現場での混乱
 すでに新聞等でも報道されているが、飲食料品についてテイクアウトは税率8%で、イートインなら10%となり、同じ商品で2種類の価格が発生することとなる。コンビニエンスストアなどでは、イートインコーナーに貼紙をするなどして対応するとのことだが、店頭での混乱は避けられないだろう。
 
問題2.対象品目の線引きが難しい
 飲食料品が軽減税率対象である、とは言うものの、現実には非常に判断が難しい場合もある。特に飲食料品の購入とサービスが一体となった取引については難しいだろう。国税庁はQ&Aを発表して判断基準を示しているが、浸透するまでには時間を要するであろうし、今後、想定外の取引形態が現れる可能性は十分にある。

問題3.将来的には対象品目の増加や複数税率の導入により、複雑さが増す
将来的には業界団体等の陳情などにより、軽減税率の対象品目が増加する可能性がある。その場合、新たに線引きを行う必要があり、国税庁が出すQ&Aも増えていくだろう。また、現在は軽減税率が1つの税率(8%)だけだが、将来的には、軽減税率が2つ、3つと増えていく可能性もある。そうなると、税制がどんどん複雑になっていき、もはや正しく納税されるのか非常に怪しい状況になるではないか。
 
問題4.標準税率のアップが避けられない
 軽減税率が導入されると、その分だけ税収が減少するため、それを補うためには標準税率を上げるしかない(もしくは、他の税目の税率が上がる)。現在は8%と10%なので、その差は2%だが、仮に将来的に飲食料品の税率が引き下げられたとしたら、標準税率は必ず10%を大きく超えていくことになるだろう。対象品目が増えた場合も同じことになる。
 
問題5.事業者コストの増大
 事業者、特に中小企業の経営者にとっては、この問題が一番大きい。具体的には、問題1で見た現場での対応のほか、請求書などの書類についても複数税率に対応しなければならないし、会計処理や税務処理も複雑で相当な手間がかかることになる。大企業ではシステム化等である程度対応可能かもしれないが、中小企業で果たして対応が可能なのだろうか。

 以上、見てきたように、軽減税率の導入にはもはやメリットはなく、デメリットだらけである。本当に何のために導入するのかわからないというのが個人的な見解だ。税制の3原則は「公平・中立・簡素」だが、このうち、「簡素」という言葉が最近は忘れられ、あらゆる税制が複雑化している。この原則を思い出し、一刻も早く軽減税率を廃止してもらいたいと願っている。


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