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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

AIでできること
                            中小企業診断士  陸井 浩三


はじめに

 一般的に、人工知能(Artificial Intelligence :AI)とは、「人間が行う特定の作業あるいは活動全体について人間の模倣を目指して作られたものの総称」といえるのではないか。しかし、現在のAIは人間の一部分、それも得意とすることしかできず、将棋を指すAIは将棋以外のことはできないし、顔認証のAIは人の顔しか判別できない。今のAIという存在は万能などではなく、世間で騒いでいるほど我々の身の回りで目にする機会も多くないように見える。
 しかし、だからこそAIとは本来どのようなものか、今、そして、将来どのような分野で活用できるのかを現時点で正しく理解することが大切だ。今のAIが過去のAIと何が違うのか、これからどのように発展していくのか、そして、AIに対して我々はどのような姿勢で臨むべきなのかを考えてみたい。

AIの歴史
 2019年、英国では新しい50ポンド紙幣の絵柄に、数学者のアラン・チューリング氏を採用すると発表した。第二次世界大戦中にナチス・ドイツの暗号解読に成功した数学者で、現在のコンピュータの基礎を作ったということでも有名である。AIの概念は、彼が1950年に提起した「機械は思考できるのか」という問いが始まりであるといわれ、その後、アメリカ人計算機科学者 ジョン・マッカーシーがAIという言葉を初めて用いた。
 1980年代になると、コンピュータの情報蓄積容量が向上し、医療や法律などの専門知識をコンピュータに取り込み、現実の出来事に対して専門家と同様の判断が下せるものが現れるようになった。専門家の知識を機械にルールとして取り込むことで、専門家と同じような判断や行動を可能にしようとする「エキスパートシステム」の登場である。しかし、人間の専門家の知識を機械に覚えさせるためには膨大な量のルールが必要であること、また、一般常識レベルの曖昧な事柄には対応が難しいということがあって、当時のAIブームは終息していった。
 そして、現在は第3次AIブームと呼ばれていて、技術的な観点においては「機械学習」と「ディープラーニング」という2つの研究成果によって支えられている。

「機械学習」と「ディープラーニング」
 「機械学習」では開発者が全ての動作をプログラムするわけでないことが、「エキスパートシステム」と根本的に違うところである。データをAI自身が解析し、法則性やルールを見つけ出す。つまり、機械自身のトレーニングによって特定のタスクを実行する。だから、「機械学習」に欠かせないものは、学習のために必要になる多量のデータになる。近年のIOTの進展により「ビックデータ」が収集できるようになり、これまでとは比較にならないデータ量を解析できることになったことで「機械学習」が大きく進展した。
 そして、「ディープラーニング」とは「機械学習」の一手法であり、人間の脳、神経のしくみを参考にしたニューラルネットワークを何層も重ねることによって、解析能力と学習能力を強化したAIのことである。
 第3次AIブームでは、これまで人間が与えていたデータの特徴を、AI自身が見つけ出したり、AI自ら新たな概念を理解したりしながら進み、例外的な事象にも対処できるようになりつつあるのが特徴である。

AIでできること
 よく知られた事例だが、Amazonでは、蓄積された莫大な購入データを基に個人の購入した商品が分析され、その個人に対して新たな商品を推薦することが行われている。Googleの検索においても個人の検索ワードに関連して検索順序が変わって表示されたり、個人ごとに広告表示の内容が変わったりすることは、もはやあたりまえのことになっている。その他、「ビックデータ」を活用したコールセンター業務や医療診断などでは、AIはもはや仕事として一般化されているレベルになっている。
 そして、今のAIは、人間のように多種多様の判断や行動はとれないものの、大規模な計算を高速に行うことや多数の記憶から最適解を見つけることは得意分野である。過去に蓄積された多量のデータ(数値化できる経験を含む)さえあるならば、それらを基にして成り立っているような仕事は比較的早く、それも容易にAIに置き換えられる可能があるという予見が成り立つ。
 以前、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は、今後10〜20年で47%の仕事が機械に取って代わられると発表し、センセーショナルな議論が巻き起こった。しかし、AIの特性と更なる今後の進展を正しく理解し、予測すれば、あながち間違いではないということがわかる。(参照 ※機械が奪う職業ランキング(米国)の上位15位)

AIを従えるには
 では、我々はどのようにAIを活用していけばよいのか。また、逆の見方として、AIに仕事を奪われないためにはどうすればよいのだろうか。
 まず、その時点時点て自分に役に立つと思えるものは、どんどん使っていくということだ。AIはまだ発達過程であって、実用化されているものはそれほど多くないが、これからも急速な勢いで研究が進み、ビジネスとして実用化されるものが増えていくに違いない。AIを活用した新しいビジネスの動向には日常的にアンテナを張りながら、自分に役に立つものは積極的に取り入れていく姿勢が必要だろう。
 また、決められたルールやフォーマット、過去の事例に寄り添うことで成り立っているような仕事はいずれAIに置き換わると考えた方がいい。客観的に自らがそのような仕事に就いていると思えるのであれば、しばらくは大丈夫かもしれないが、いつかその仕事は無くなると考えた方が賢明だ。ひとひねり、新たな付加価値を加え、同じ仕事でも単純な置き換えができないようなビジネススタイルに変化させていくことが必要だろう。

※機械が奪う職業ランキング(米国)の上位15位(引用:ダイヤモンドオンライン)
小売店販売員/会計士/一番事務員/セールスマン/一般秘書/飲食カウンター接客係/商店レジ打ち係や切符販売員/箱詰め積み降ろしなどの作業員/帳簿係などの金融取引記録保全員/大型トラック・ローリー車の運転手/コールセンター案内係/乗用車・タクシー・バンの運転手/中央官庁職員など上級公務員/調理人(料理人の下で働く人)/ビル管理人



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