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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

プロ野球 パリーグの熱い記憶
                              中小企業診断士 村上 顕

2冊の出版物

 1988年のパ・リーグ(新潮社 山室寛之著)、阪急ブレーブス 勇者たちの記憶(中央公論社 読売新聞阪神支局)の2冊が相次いで出版となった。
前者が2019年7月、後者が同年9月の出版である。この2冊が扱っている期間は、1960年代〜80年代が中心で、ちょうど、そのころのパ・リーグは人気のセ・リーグに大きく観客数やTV中継などで水をあけられ、もがいている時期だ。しかしながら、人気でこそセ・リーグに水をかけられていたが、実力では巨人のV9が終わってパ・リーグのチームが日本シリーズを制する回数が増加していく時期でもある。皮肉なことに、力がついても人気は相変わらず低調で、ついには、身売りという結末を招くこととなった2チーム(阪急ブレーブス、南海ホークス)について取り扱っているのが前者だ。
後者は、阪急ブレーブスという巨人、阪神に次ぐ歴史のあるチームの栄光を、選手のみならず阪急に関係する人々を通して描きだした力作である。読売新聞の阪神版に定期的に掲載されていた文章をまとめたものである。

1988年のパ・リーグ(新潮社 山室寛之著)

 阪急ブレーブスと南海ホークスの身売りと10.19というプロ野球史に燦然と輝く近鉄・バファローズ 対 ロッテ・オリオンズのシーズン終盤の大熱戦を描き出している。
南海の身売りでは、西鉄・ライオンズというおらがチームを失った福岡が再び夢を取り戻すべく立ち上がった市民運動としての視点からの記載と、ビジネスとしてのプロ野球への参戦の視点で切り込む経営者としての視点からの記載とのせめぎあいが感動を呼ぶ。
阪急の身売りは、南海の身売りを風よけにして水面下で進んだ買収劇を淡々と語っている。
プロ野球チームというある意味、公器の売買は、単なるビジネスのM&Aの比ではないくらい秘密性が要求され、発表のタイミングも、日本シリーズなどをはずしたり、オーナー会議での承認後でないといけなかったりと制約も多い。
そのような、M&Aの実践ともいえる内容も存分に記述があるので、M&Aの進め方、考え方等のビジネス的なところでも勉強になろう。
また、あの「10.19」と翌年の近鉄のブライアントの4ホーマーで逆転優勝する涙の栄光を実に細かく、テレビ局や選手の生々しい記憶から語らせている。あの、感動がふたたびよみがえると同時に、ロッテ・有藤監督の不名誉な抗議のいきさつも、正しく記録されている。是非、あのときのいやがらせの抗議の真相を確認してもらいたい。

阪急ブレーブス 勇者たちの記憶(中央公論社 読売新聞阪神支局)

 もう一冊は、阪急ブレーブスという小林一三(阪急創業者)が宝塚とともに日本へ取り込んだプロ野球チームの1960年代から1980年代の初優勝、涙の日本一、そして巨人を倒しての真の日本一への長い道のりを、西本幸雄監督、福本・加藤・山田・長池ら主力選手、大熊、高井といったサブプレイヤーたちを通して語っている。また打撃投手、応援団団長、スコアラー等の裏方さんという存在にも陽をあてているところが憎い。
おのおのの登場人物たちの、各々の立場で見せる、「ブレーブスを日本一にする」という唯一の目標へ向けてのプロ魂を是非、読んでほしい。
そこには、お互いの仕事を尊重し、尊敬し、それが故の「感謝」の気持ちがビジネスや人としての成長にかかせないことが表現されている。また、「感謝」の気持ちと「日本一」という目標がチーム・ブレーブスを動かしてきたのだと理解できる。
我々の仕事に対する考え方、従業員教育の参考にできることうけあいである。

現在のパ・リーグ
 こういう時期を経て、今のパ・リーグが存在する。上記2冊の対象期間の大半においては、親会社は、西鉄、阪急、近鉄、南海、東映、ロッテという顔ぶれだった。実に6球団中、4球団が鉄道会社のチームだった。時代が変遷するにつけ、地域密着型の鉄道会社がプロ野球チームを持つメリットが減じていった。逆に、無名だった会社がプロ野球チームを持つことで一気にその名を知らしめる(オリックス)、IT企業が広告や顧客獲得戦略とうまくからませてチームを運営する(ソフトバンク、楽天)といった方向へ移行し、時代を引っ張る企業の業態や業種の変化も如実に見えるのである。そして、フランチャイズという東北(東北楽天・ゴールデンイーグルス)、北海道(北海道日本ハム・ファイターズ)、千葉(千葉ロッテ・マリーンズ)、埼玉(埼玉西武・ライオンズ)、福岡(福岡ソフトバンク・ホークス)での成功も新しいプロ野球チームのあり方を大きく変えたものになった。

最後に
 是非、上記2冊をお読みいただき、少しでもパ・リーグへの興味を持っていただくとともに、ビジネスの進め方や根回しの方法の理解として、また職業人としての生き方や職業観の参考にしていただけると嬉しい限りである。
 

NPO法人 ビジネスアシストこうべ