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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

製造業の将来のために
                                     DAHDA


 新型コロナウイルスに感染された方にお見舞い申し上げますと共に、医療に従事されている方のご健闘をお祈りいたします。
今回の感染症は経済にも甚大な影響を及ぼし、V字回復を望んでも短期で元に戻ることはないでしょう。この様な状態であるからこそ、製造会社が生き残るために必要なことは何かを考えたいと思います。

1.製造会社の平均寿命

 製造業の範疇に入る会社は他の業種の会社よりも長寿命と言われているようですが、それでも起業から廃業までの平均的な寿命は、しっかりした技術、製品を持っていた製造会社であっても30年程度と言われています。製造会社に特有の廃業原因としては、創業者や創業期からのベテラン社員の年齢的な問題から来る技術・技能の伝承の問題、市場の変化による製品・製造技術の陳腐化等が考えられます。

2.三つの取組
物をつくる会社が平均寿命を超えて長く生き残って行くためには、時代の変化に応じて顧客が必要とする製品を顧客が求める品質で安く作り続けねばなりません。このことを実現するには、
(1)最新の技術を取り込もうとする取組
(2)顧客が求める品質レベルの製品を低コストで安定的に作る取組
(3)社員一人一人の実力を向上させる取組
が必須であると考えます。
自社に必要な「技術」、言い換えると自社の強みを活かせることにつながる技術を取り込み、製品開発や製造要領に反映するのが(1)の取組です。これを行うためには、経営や日々の仕事に余裕が無ければなりませんが、そのために必要になるのが(2)の取組です。品質のバラツキがなく、無駄を省くことを徹底した製造を実現しなければなりません。
(1)と(2)を実現するためには(3)の取組が必要になります。事務・技術職はもちろんのこと、技能職であっても自分の専門に一層磨きをかけると同時に職務の背景や一般的な知識の習得に努めないと、形だけ(2)を行ってもすぐに効果が薄れ、進化できません。「企業は人なり」という格言は何時の時代であっても正しいと思います。
そして、これら3つの取組が持続的かつ有効に行われるための管理体制の整備も必要です。いわゆるマネジメントシステムですが、マネジメントシステム自体は単なる制度・仕組みにすぎません。実際に(1)〜(3)の取組が有効に行われていることが重要です。中小企業の場合、三つの取組に加え、適正規模を保つということを忘れなければ、生き残ることが出来る可能性は高くなるでしょう。

3.読解力の壁
前項の三つの取組のために、人を動かすには、言葉・文字にして文書化し、それに基づいて人を動かしていかねばなりませんが、そこに大きな壁があることを最近あらためて認識しました。これを読まれている皆さんは、「言っていることが分かっているのか」とか「訊いたことに対して、ピントがぼけたことしか言わない人だ」と感じた経験はありませんか。私は最近、AIの専門家が現在のAIの限界を探る内に、中学校の教科書レベルの文を日本語として正しく読むことが出来ない人が相当数居ることに気付き、厳密な調査を行った結果を、ビジネス誌の記事#1やその専門家の著書#2で読みました。そこに書かれていたのは、ビジネス誌の記事のタイトルをそのまま借りると「日本人の1/3は日本語が読めない!?」という事実です。(#1:日経ビジネス 2019.10.23、 #2:新井紀子「AI vs.教科書が読めない子どもたち」東洋経済新報社、同「AIに負けない子どもを育てる」東洋経済新報社)
日本では、文章を読んだ際に、日本語として意味を理解する力(読解力)は誰でも同じ様に身に付くはずとして、国語の教育で重視されませんでした。考える力や創造力を養うはずった「ゆとり教育」は空回りして読解力は低下し、入試に合格するためのパターンあるいはキーワードを記憶する力だけが伸びる結果になりました。このため、自分では中学校教科書レベルの文なら(言葉の意味さえ分かれば)理解出来ると思っていても、実際には日本語としてまともに読むことが出来ない人間を大量に社会へ送り出してしまった様なのです。

4.壁の打破
普通に書かれている仕様書や要領書でも、ベテランの人が考えている程には内容を理解できていない人が多数存在するという現実を頭に入れた上で、(1)〜(3)の取組を進めねばなりません。
途切れ途切れにキーワードを追うことは出来るが、文あるいは文章が言おうとしている全体の意味を理解するのは苦手という人が普通に居ることを前提に、要領書や指示書を作る時には、推論の必要が無い具体的で簡潔な文や図・写真の使用を心がけることが大切です。その一方で、読解力向上を(3)の取組に組み込むことも必要でしょう。読解力が身に付かないまま大人になっても、その事を自覚し、文を読む際に、「ゆっくりと全ての文字を読み、意味の分からない言葉はその場で辞書かインターネットで調べ、文全体が言わんとしていることを理解するように努める」ことが、読解力の改善につながることが示されています。一人一人の実力が上がり、利益を出すことが出来て、必要な技術を取り込むことが出来れば、市場の変化に対応して進化することが出来、長寿命の会社になることでしょう。
最後に、読解力の問題は製造会社に限った問題ではなく、日本社会全体で取り組まねばならない問題でもあることを付記します。
 


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