はじめに
野田総理は大飯原子力発電所の再稼働を決めました。しかし、その理由については「国民の生活を守るため」と言うだけで、具体的な判断の筋道、論理は分からないままです。野田政権発足時から再稼働ありきだったのかもしれませんが、それでも政府は再稼働しない場合と再稼働した場合の広範囲なシミュレーション、単にこの1年間に電力が足りるか足りないかだけではない多くの視点からのシミュレーションを行ったはず。その結果として、日本の将来を見据えると「今、再稼働するのがベスト」と判断したと信じたいところです。
是非を考える上でのヒント
ここで、原子力発電所を再稼働した場合のメリットとデメリット、再稼働しない場合のメリットとデメリットについて、マスコミではあまり取り上げられていない視点から、個人的に感じることもまじえながら思いつくままに書き出してみます。それぞれのメリット、デメリットは裏返しの関係にありますが、一応ここでは4つに分けて記述しています。
(1)
再稼働した場合のメリット
昼間の節電の度合いが少なくて済むことにより、企業は夜間操業等の努力をしなくてもよい。
電力会社の経営を維持でき、ボーナスカット等で有能な人材が電力会社から流出する事を防げるの で、電力供給維持が危なくなる確率を下げることが出来る。
「防潮堤や免震棟の設置は条件だが、実際に建設していなくても計画があれば再稼働してもよい」 というような信念も誠実さも感じられないことがまかり通ることによる日本社会全体のモラールの 低下。さらに、論理的決定の出来ない国であると海外諸国に認識されること。
実際に重大な不具合が起きることの確率は、火力発電所が重大な問題を起こすよりも遙かに低い と考えてもよいであろうが、「想定外」の重大な不具合が発生した場合の放射能による環境汚染の 影響は、計り知れないほど大きい。どれほど大きいかは、低レベル放射能の継続的被爆が遺伝、免 疫力、発癌確率等へ及ぼす統計的な影響を具体的な数字で示すことが出来ないので、確かなことは 言えないであろうが、核燃料の大規模飛散というような福島よりもさらに深刻な事態もあり得ない 話とは言えないだろう。
使用済み核燃料という負の遺産を作り続けることにストップがかかる。
国民の税金を補償と称して特定地域に交付する非合理性(安全というなら補償金はいらないはず) を無くすことが出来る。ただし、補償金は海外へ金が流出する訳ではないので、国という単位で見 た時には大きな問題とは思わない。
(4)
再稼働しない場合のデメリット
火力発電所のための燃料を海外から購入(輸入)しなければならず、貿易収支が悪化し、海外資産を食いつぶし始めると日本が一気にギリシャ化するリスクを抱えることになる。
火力発電所をフル稼働しなければならないが、長期間休止していた発電所では機械の状態も不明で、さらに悪いことには長期休止中に機械の状態を判断できる現場のエンジニアがいなくなっている。このため、フル稼働させると、原発に重大な不具合が起きるよりも桁違いの高さの確率で重大な不具合が発生し、緊急停止することを想定しておかざるを得ないが、発電余力がぎりぎりの状態で発電所が一つ止まると、連鎖的に大停電となり、信号が消えることによる交通事故の発生、医療機器の停止による患者死亡等を覚悟しなければならない。
(追)資源小国であることの自覚
日本にはエネルギー資源がありません。そのことに対する解決策が原子力発電であるということが、50年先、100年先を考えると正しいのでしょうか。再生可能エネルギーも良いのですが、現実的に考えるなら、政府は原子力以外の従来型のエネルギー資源の確保に今よりももっと熱心に取り組まねばならないように思います。やり方は好きではありませんが、その熱心さは中国を見習うべきでしょう。その一方で、エネルギー資源のない日本においては、必死に勉強し、身を粉にして働かねば現在の生活を維持できないということを日本国民は肝に銘じるべきと思います。資源大国なら円周率は3でよいかもしれませんが、資源小国の国民が先端技術を駆使した製品に取り囲まれた生活を望むなら、円周率3の教育は間違いであると確信するものです。