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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

消費増税が中小企業に与える影響
                              中小企業診断士 宮本哲也

消費税とは?

 社会保障と税の一体改革により、消費税の税率を引き上げることが決定した。具体的には、20144月から8%に、201510月から10%になる。ここで、一つ質問だが、皆さんはどれだけ消費税のことを知っているだろうか?「消費税は消費者が負担するものである」と思っている方がほとんどだと思うが、実はそうではない。今回は消費税の仕組みに焦点をあて、ひいては消費税が中小企業にどのような影響を与えており、消費増税にどう対応すべきかについて考えてみたい。

誰が負担するのか?

消費税とは一体どのような税金なのだろうか?何に対して課される税金なのだろうか?誰が納める税金なのだろうか?
 消費税法によると、消費税の課税の対象は「国内において事業者が行った資産の譲渡等」となっている。「国内」なので、外国では日本の消費税は課されないこととなり、「事業者が」なので、一般の人がフリーマーケット等で物を売っても消費税は課されない。「資産の譲渡等」とは、「モノの販売・貸付けと役務(サービス)の提供」のことである。そして、消費税の納税義務者は「事業者」となっている。

 つまり、法律上消費税とは事業者に課された税金であり、「一般の消費者が負担する」ものではないのである。しかし、我々は消費者が負担するものだと思っている。実は、消費税は事業者にとっては「原価の一構成要素」であり、その分を売価に上乗せしていると考えるべきなのである。消費税がすべて売価に上乗せされていれば、実質的に消費者が負担していることになり、世間で言われている「一般の消費者が負担する」という考えと合致することになる。

消費税の仕組み

 消費税の納税義務者はあくまで事業者であるため、実際の納税作業は事業者が行うこととなる。具体的な納税額の算出は「売上に係る消費税から仕入に係る消費税を控除」して計算する。例えば、売上に係る消費税が100万円で、仕入に係る消費税が80万円である場合、納付税額は差額の20万円となる。税務署などでは、「消費税は預り金的性格を持っているので、滞納せずに支払いましょう」などとキャンペーンを行っているが、先述したとおり、消費税の納税義務者は事業者であり、消費者ではないので、個人的にはこの指摘は当てはまらないと思っている。もちろん、税金を滞納することはよくないことであることは言うまでもないが。

中小企業に対して与える影響

 それでは、今回の税率引き上げが、中小企業の経営にどのような影響を与えるのかを考えてみたい。仮に税率のアップ分をすべて売価に転嫁できれば、増税の影響は消費者が負うことになり、事業者への影響はないことになる(増税によって景気が冷え込んで売り上げが下がるといった影響はあるかもしれないが、ここでは税率アップの影響を誰が負担するかという視点で考えている)。しかし、新聞でも報道されているように、特に中小企業においては厳しい競争環境や大企業からの要請により、簡単に転嫁できないのではないか、という指摘がある。仮に転嫁できずに売価据え置きということになると、増税分は事業者(中小企業)が負担することとなり、その分利益が減少してしまうことになる。

 ここで少し考えてほしい。先述したように、消費税の納税義務者は事業者であり、事業者がモノを売ったり貸したり、サービスを提供した時に課税されるのである。そうすると、売価への転嫁がきちんとされるかどうかなどは、実は関係ないのである。そう、実は消費増税は、消費者に影響があるものではなく事業者、とりわけ売価への転嫁が難しい中小企業に多くの負担を求めるものだったのである。消費者は、あくまでも間接的に影響を受けるという立場なのである。

どのように対応するか

 では、実質負担者である中小企業は、増税にどのように対応すればよいのだろうか?

 まず一つ目として、「転嫁が前提ではないという意識をしっかり持つ」ことである。原価には消費税以外にも構成要素はたくさんある。原材料もそうだし、電気代もそうである。これらの構成要素が値上がりしたとしても自動的に売価に転嫁できないのはいうまでもないだろう。すなわち、多少の原価の変動は企業努力で吸収しないといけないわけである。消費増税についても同じであり、他の原価構成要素と同じだという理解を持つことがまずは必要である。

 そうは言っても、今回の消費増税の影響は大きいことから、企業努力だけで吸収するのは厳しい。ここで二つ目の対応だが、「転嫁すべきものはきちんと転嫁する」ということである。法律上はともかく、国民の大多数は「消費税は消費者が負担するもの」と思い込んでいる。ということは、その分を売価に転嫁することについても、他の原価構成要素よりは、許容してくれる可能性が高い。また、大企業にとっても、最終的に売価に転嫁できるのなら、中小企業からの仕入れ段階で値切らなくてもよいとことになる。

 今後も消費税率はますます引き上げられていく可能性が高いため、消費税について正しい認識を持ったうえで、対応していくことが必要である。

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