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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

医療・福祉産業の賃金と今後
                              中小企業診断士 松田良一

医療・福祉産業の賃金の現状

 本年6月の報道によれば、医療や介護などサービス関連企業が雇用を大幅に増やしたが、こうした分野で働く人の賃金はむしろ減っている。我が国では雇用のサービス業シフトが賃金相場を押し上げる米国とは逆の動きである。
 みずほ総研の調べによると、医療・福祉の雇用は02〜10年の期間に38%増えたが、1人当り賃金は13%減少。 製造業は13%雇用を減らしたが、賃金は2%増加した。
 米国では同じ期間にヘルスケア・教育関連産業の雇用が20%増え、この分野で働く人の賃金は32%増えた。 日本でも医療分野の拡大が進むが賃金相場と連動しない。

非正規社員で維持される医療・福祉産業

 この要因のひとつに我が国では増加した雇用の多くを非正規社員で賄っていることがある。
 OECDの05年の調査では日本のパートの平均給与は正規社員の48%に過ぎず、スイス(98%)、ドイツ(74%)など「同一労働・同一賃金」が一般的な欧米諸国と経済や社会の仕組みが懸け離れている。(6月日経新聞より)
 賃金水準が他の産業より低いのであるが、他の数値はどのようであるか。中小企業庁が産業別の財務データを公表しておりサービス業を製造業と比較してみる。(ここでのサービス業とは「宿泊業・飲食サービス業」「クリーニング店などの生活サービス業・娯楽業」以外の広いサービス業種であり、特に知りたい医療や介護以外の業種も含まれているが、他に適当なデータが見当たらないため止むを得ず使用する。)
  当該の公表によると、平成22年度の製造業とサービス業の付加価値率(付加価値÷売上高)は各々28.66%と52.44%となっておりサービス業の付加価値の高さが際立っている。 一方、労働分配率(人件費÷付加価値)は同じ順に各々73.57%、85.55%とサービス業のほうが高い。 サービス業においては製造業より付加価値の高い業種のため「人件費への分配が高くできる」というのであれば良いのだが、前出の記事その他製造業に比べたサービス業の賃金水準の低さは良く知られている。

医療・福祉産業の発展に向けて

 労働分配率が高いのに賃金が低いのであれば、労働生産性(付加価値÷労働者数)がかなり低いことになる。
 これからの少子高齢化が急速に進む社会を背景に、医療・福祉産業の市場拡大傾向は続くことは広く知られていることだが、その産業分野での賃金水準が向上しなければ雇用者の生活水準の向上もなく有能な人材の確保が困難となることが懸念される。
 労働時間短縮策の拡充や企業へのワークライフバランス定着など労働生産性向上に向けた取り組みを継続するとともに、医療・福祉産業での賃金水準の向上については企業単独の努力だけではなく国の支援策強化も必要となるのではないか。

 医療・福祉分野での市場拡大傾向は、サービスを必要とする国民が増えているということである。 医療・福祉サービスを必要とする人へ事業者(医療機関を含む)での人材確保難によって従業員が不足したり、サービスの品質低下があったりすれば利用者の国民にとって不幸な状況となる。企業の自助努力だけでなく、これからは国の政策や福祉サービスを受ける国民の意識も変わる必要があるのではないだろうか。 

NPO法人 ビジネスアシストこうべ