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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

8年ぶりのアメリカ大陸出張
                                       HM

はじめに

私は「日本では」大手企業に勤務している、いわゆる「企業内診断士」(独立していない、民間企業所属の中小企業診断士)です。現在は本社部門で勤務をしていますが、元々は海外部門に所属しており、北米・中南米における地域本社拠点がある米国にも住んでいました。先日、8年ぶりにアメリカ大陸に出張する機会を得ましたので、その際感じたことを書かせていただきます。
 
米国

 はじめに訪れたのが、米国ニュージャージー州です。ニュージャージー州といってもピンと来ない方が多いと思いますが、ニューヨーク州の隣の州です。ハドソン側を挟んで向かいがマンハッタンです。関西の方には梅田がニューヨークだとすると、淀川を挟んで隣の兵庫県のようなもの、とよく説明します。私がいた頃は住宅街の中の古い3階建てのビルに事務所がありましたが、今は再開発区域内の12階建てのビルに移転をしています。私など、現地採用のアメリカ人からしたら、遠くから一時的に来た多くの日本人の一人にしかすぎないにもかかわらず、また8年という年月が経過したにもかかわらず、多くの人、それも必ずしも同じ部署でなかった人が、私のことを覚えていてくれたのはうれしく思いました。一方で、物理的な場所こそ異なりますが、あまり変化を感じなかったのも事実です。私がいた頃、担当者だった人は課長、課長だった人は部長、と職位こそ上がっていますが、同じ人が同じ部署でそのまま働いているケースが多々ありました。「ポストに給料を払う」職務給に基づく人事制度が一般的な米国では同一企業内で職種が変わるのは稀です。それに加え、定年退職制度がないこともあり、良くいえば、熟練者が定着しているということになりますが、悪くいえば人が固定化して活気が低下しています。
 人の固定化というのは日本の企業においても課題になっているのではないかと思います。一旦成果が下がっても給料を保証した上で異なる仕事に挑戦させることも必要ではないかと思います。これは、かつて日本の大企業が好んだゼネラリストの育成方法です。最近では日本の大企業は米国式人事制度に移行する傾向にありますが、人材リソースに限りのある中小企業においてはまだまだ有効な人材育成・活性化方法ではないかと思います。

パナマ

 次に訪れたのがパナマです。移動の合間の休日に行ったパナマ運河のことを書かせていただきます。パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ運河で、海運の世界では非常に重要な要所となっています。この運河を通れるぎりぎりのサイズの船舶は「パナマックス」と呼ばれています。近年ではさらに大きな船舶も増えてきていることに対応し、パナマ運河の拡幅工事も行われています。
 ここまでは私は以前より存じ上げておりましたが、今回驚いたのは次の2点です。1点目は通行料。船舶のサイズにもよりますが、神戸港でもよく見るようなコンテナ船がただ1回、運河を通過するだけで数千万円もかかるとのこと。それでもアメリカ大陸の端を通るよりは日数もコストもセーブできるので、なかなか足下を見た価格設定だと思います。ちなみに、アメリカ海軍の船舶は、過去アメリカの管理下にあったという歴史的経緯もあり、ディスカウント価格が適用されているとのこと。2点目がその決済条件です。なんと全て前受けです。入金が確認されるまで運河を通さないそうです。売掛金の回収管理、資金繰りの悩みゼロです。近年では近くの国のニカラグアで中国企業が運河を建設予定、という話もありますが、オンリーワンならではの強みが発揮されています。
 企業経営においても、以下に他者より優位な商品を製造・販売し、いい取引条件を確保できるか、というのが非常に重要かと思います。言うは易く行うは難し、ではありますが。
 
(大手)企業内診断士として

 冒頭「日本では」、と書かせていただいたのは、大企業といえども、グループ企業の中には、特に海外会社となりますと、中小企業も少なからずあるからです。中小企業基本法によりますと、中小企業の定義は製造業なら資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業なら資本金1億円以下または従業員100人以下になります。大企業グループの中にもこの規模の企業は多くあり、中小企業特有の悩みを抱えています。しかしながら、大企業内においてはどうしても大企業的発想で物事が考えられがちな傾向にあります。中小企業的視点を外から企業グループ内に持ち込むのも大手企業に勤める企業内診断士の役割ではないかと思います。
 一方、大企業グループならではの経営ノウハウがあり、それがグループ内中小企業で活かされているのも事実です。就業規則、営業秘密といった制約条件の範囲内で中小企業に還元し、社会の発展に資することも、国家資格である中小企業診断士(企業内診断士)の役割ではないかと思います。
 


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