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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

あさ は来るのか
                             中小企業診断士 松田良一

 
 このコラムでは経済、経営について意見を述べることが本筋であるが、一方で経済的な歪みがもたらす問題に関して気になることが多い。
 産業発展の土台として教育の役割を誰もが認めることであると思う。ところが所得の格差により学生の就学に支障が出ている状況を見聞きする。

 OECD2014年5月の「過去約30年間における上位1%の所得割合の推移」によると上位1%の人たちの所得割合は、1981年と2012年で比較したとき、アメリカは8.2%から20%に、日本でも7.5%から10%に上昇している。
 要するにアメリカでは、全労働者が得る所得のうち、上位1%がその20%を、日本では10%を独占しているということであり、格差が広がるメカニズムが今の社会に内在しているということである。
 ビジネスの成果に応じた報酬を得る、という基本的な考え方に問題はないはずだが1%という一握りの高所得者の支出はどのような内容なのか。所得の格差が大きすぎると世の中の安定が揺らいでくる。その現象の一つが教育に表れる差である。 

 文部科学省「平成24年度 子供の学習費調査」および日本政策金融公庫「平成26年度 教育費負担の実態調査結果」によれば幼稚園から大学4年間までの子供1人当り教育費はすべて国公立の場合1015万円、すべて私立(大学は理系)の場合2466万円と高額である。
 大学4年間だけでみると公立(国立)511万円、私立文系692万円、理系788万円である。 所得に余裕の無い家庭では家計のやりくりで補てんできない教育費は子供の奨学金や教育ローンと子供によるアルバイトに依存する。就学時から正社員と同等勤務のアルバイトで卒業や就職に影響がでたり、卒業と同時に500万円〜700万円の債務(奨学金や教育ローンなど)を抱える若者が増えていると聞く。

 国の発展の基礎は人材育成にあると確信し、教育活動に貢献している経営者としてPHP研究所や松下経営塾を創設した故松下幸之助氏、現役では京セラ及びKDDI創業者であり経営塾を運営する稲森和夫氏などの企業家が存在する。 因みに松下政経塾の募集要項を見ると「生活の心配なく、国家百年の大計を創って欲しい」という松下幸之助塾主の思いから、塾の@研修資金(在学4年間月額21〜26万円)A活動資金(塾生の自由裁量で年平均110万円)およびB塾生寮の無償提供と在塾中は塾生に専念できる経済的生活環境が整備されているようである。日本の労働者所得の10%を占める1%の富裕層がすべて経営者ではないが、社会に富を還元できる資力の面で存在感は大きい。自己の努力で積み上げた富を教育に投資する能力は経営者によるところが大きいのではないだろうか。

 朝の連続ドラマ「あさが来た」の主人公は大同生命の創業者の1人で実在した広岡浅子という人物である。明治・大正時代を生きた女性実業家であると同時に日本初の女子大学設立に尽力し女子教育に情熱をささげた人である。
 蓄積した財産と時間を自発的に教育へ投資する利他主義、その生涯は同時に経営者としてまた人間としての器を感じさせる。


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