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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

フランス紀行(旅行から考えた労働生産性)
                            中小企業診断士   松田良一

はじめに

経済学では資本主義社会は常に経済成長が必要であり、成長の元となる消費拡大のために賃上げは必須という理論らしい。賃上げと生産性向上は両立しなければならないのも経済の論理ではある。

フランスを旅行し「労働生産性」というものの本質的な意味がわからなくなっている。 

労働生産性の意味

我が国の労働生産性(2017年)はOECD先進国35ヵ国のうち21位で、1970年以降主要7ヵ国では最低という順位である。
統計がおかしいのでは、という疑問はあるが日本政府も特に否定しておらず正しいという前提で考えてみる。

国際的な労働生産性はGDP÷(就業者数×労働時間)となる。
働き方改革と言われるが、日本人の業務効率がそんなに低いのか誰しも疑問に思うのではないだろうか。
昨年旅行したフランスは国際順位は8番で日本の労働生産性46ドルに対し66.9ドルと格差は明白である。バカンスと言われる2〜3ケ月の連続休暇をほとんどの国民が取得していることもよく知られているところである。
GDPはおおまかに付加価値とも言えるが、フランスは農業大国であり国産車ルノーなどの製造業はあるものの、ITなど付加価値型産業で突出した企業名は聞かないし日本のように世界の製造業を支える部品、精密加工業を有しているわけでもない。

フランス旅行から考えた労働生産性

そのような疑問から以下旅行での体験から独断的ではあるが労働生産性というものを考えたい。 結論から言えば、物価が高い割に手間をかけない、日本人からみれば手抜きで雑なサービスが労働生産性を高めているのではないかという仮説である。

1)物価の高さ
 ・ビジネスホテルに近い宿に12泊したが、日本で1万円程度のホテルが1.4〜1.8倍くらいであった。
 ・日常的に感じるのは外食および食品スーパーの商品価格である。特にレストランはおよそ24回食事したことになるが、日本のファミリー・レストランのランチ価格を千円とすると同じレベルの店で2.6千円〜4千円(20〜30ユーロ)と高い。
 食料品もそんなに安くなかった。
2)サービス簡素化(日本から見れば手抜き?)
 ・空港に到着すると入国検査及び税関となるが、入国待ちの長蛇の列であり検査係は女性でパスポートとこちらの顔を比べていたがたった1人であり1時間くらい待たされる。
 日本に帰国すると税関は待ち時間無しで通過できるものの、要員が4〜5名はいる。
 ・日本の新幹線のようなTGVという車両で首都パリから約600km南へ行く場合、往復運賃は27,800円であるから割安とも言える。
 ところが、都心部から遠くなると各駅停車となるのに驚いた。日本では利用者の快適性、利便性を追求するとローカル線と別に高速の新たな新幹線鉄道を開設することになる。
 フランス南部では新幹線とローカル線が一体になっているから、コスト、人員とも少ないと思われる。各駅停車では故障とかで遅れ遅れになったが、乗客は慣れている様子で誰も文句を言わない。
 ・よく知らずにシニア料金というから隣駅まで往復切符を買ったが、帰りは電車のはずがよく見るとautobus(バス)と印字されているのには参った。
 日本で鉄道とバスの往復セットという切符は想像できない。しかしバス、鉄道双方の稼働率を高めるという意味では合理的である。結局バスはキャンセルできず余分の出費(笑)
 ・バス、トイレなどの施設が場所により異なる。戸惑うのはこれらの施設の道具と使用方法がかなり異なることである。規格が異なると商品コストは高くなるがばらばらでも使い続ければ結局コストは低下することも考えられる。
 輸入車のモデルチェンジが8年と聞くが、設備など他の製品でも仕様変更が少なければ製造、修理技術に関して労働生産性は向上しなくとも低下しにくいかも知れない。
 ・考えにくいことだが、自分中心のサービスが生産性を低下させないかも知れない。
 支払いはほとんどクレジットカードであるが、カード情報の読み取りタイプがほとんど横型で縦型は少ない。私のカードは縦型だ。店員が縦型の読み取りができないので、代わりにこちら(お客)がすることが何回かあった。顧客に手数料を支払うわけでもない。
 ユーロ圏内の鉄道切符を日本で予約購入できるRAILEUROPEというサービス組織があり、購入した。当日切符を発行する専用端末機があると説明がありその操作画面を予め印刷し、駅に着いたところ専用機がない! しかたなく切符購入デスクの係員に予約のアプリ画面を提示して切符を発行させた。駅別に専用機の有無は告知されない。
 宿泊料精算もホテルにより違う。ある所では既にクレジットカードで支払った金額を除いて領収書を発行し、別のホテルはクレジット金額を含めた総額でレシートを発行する。
 それぞれの精算方法の違いを統一しようという考えもないのであろう。
 日本で常識ともいえる顧客サービスはここにはない。

日本の労働生産性低水準の仮設

 以上のとおり、フランスでは物価は高く、一方でヒトの介在するサービスは自社の都合に合わせ簡素化・合理化が徹底していることが労働生産性の高い要素ではないかと考えるに至った。逆にみると、顧客最優先のきめ細かいあらゆる気配りがないと営業していけない我が国の実情が、生産性の水準が低い要因になり得ると考える。
 その国に長く居住したことはないので、あくまで旅行という限定した経験である。


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