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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

寸法と温度の話
                                     DAHDA

はじめに

 今回はものづくりにおける寸法と温度についての話です。
 ものづくりでは多くの場合、図面で形状と寸法を示し、実際にものを作る人はそれを読み取って、図面に示された通りのものを作りますが、精度の高い寸法が必要な時には寸法を測るのも一筋縄ではいきません。以下の話は、寸法に高い精度を必要としない場合には関係の無い話なので、そのつもりでお読み下さい。
(精度の高い寸法とは、大雑把に言えば1mで0.1mm単位かそれよりも更に高い正確さが必要な寸法と考えて下さい)

温度が変わると長さが変わる

 皆さんは、温度が変わると物の長さが伸び縮みすることをご存知でしょう。最近はあまり聞きませんが、昔は鉄道のレールが伸びて曲がってしまい、不通になったというニュースが夏になると聞かれたものです。これを回避するためにレールの継ぎ目には隙間があけてあります。材質によって程度に差はありますが、どのような物でも温度が変わると伸び縮みします。ほとんどの物は、温度が高くなると伸び、低くなると縮みます。

図面の寸法は20℃の時の寸法

 図面を見てものを作る場合、ものは温度で伸び縮みするのですから、図面に書かれた寸法は温度が何度の時の寸法を示しているのかを決めておかねばなりません。この温度は、図面に特に断り書きが無い限り、摂氏20度と決まっています。これはISO(国際標準化機構)の最初の規格である ISO 1で定められており、世界共通のルールです。

 図面の寸法は20℃の時の寸法なのですから、20℃以外の状態で寸法を計測した場合には、計測された値を20℃の時の値に補正して図面の寸法通りになっているかをチェックしなければなりません。しかし、ものづくりの現場では、1/100mm程度の精度を要求される場合でも補正する必要がないことがよくあります。それはワーク(加工対象部品)の材料が普通鋼であることが多く、その寸法を計測するマイクロメータ(精密に寸法を読み取る仕掛けが付いた物差し)の材料が普通鋼と同じレベルの線膨張係数(温度が1℃変化すると1mあたりμm単位でどれだけ伸び縮みするかを示す数値)を持った材料で作られているためです。温度変化でワークが伸び縮みする割合と同じ割合で伸び縮みする物差しで測れば、読み取った寸法を補正する必要はないという理屈です。物差しであるマイクロメータは20℃の時に正しい寸法を示すように作られているので、計測時の温度が20℃以外の場合でも(実際の寸法は20℃の時の寸法と異なっていますが)、計測される値は20℃の時の寸法を示していることになります。但し、ワークとマイクロメータは同じ温度にしておかねばなりません。

温度補正が必要な場合

 厄介なのはワークの材質の線膨張係数がマイクロメータの線膨張係数と異なる場合で、この場合は温度補正が必要になります。ここで言う温度補正とは、20℃以外の温度で計測された寸法の値を20℃の時の値に変換することで、マイクロメータで寸法計測する場合は、寸法を計測した時の温度と20℃の温度差と、ワークの線膨張係数とマイクロメータの線膨張係数の差から寸法の補正量を算出します。銅、アルミやステンレス等の寸法計測では温度補正をしなければなりません。最近、レーザ式等、温度の影響を受けない寸法計測装置もありますが、その場合でも、寸法を計測した時のワークの温度と20℃の温度差とワークの線膨張係数から補正量を算出して温度補正をすることが必要です。

 更に、複雑な形状のものの場合は線膨張係数による補正だけでは済まないので、20℃に保たれた恒温室の中で加工し、寸法計測を行います。温度補正の必要がなく、最も確実な方法です。線膨張係数の値がハッキリしない材料の場合も恒温室で20℃にして寸法計測を行います。

 日頃から精密な機械加工を生業とされている方には当たり前の話だったと思いますが、「図面の寸法は20℃の時の寸法」という約束事があることを初めて知った方もおられるでしょう。ものづくりに関係される方の参考になれば幸いです。



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