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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

コロナ禍で進んだ働き方改革
                            中小企業診断士  陸井 浩三


慌てて進んだリモートワーク

 消費者庁の徳島移転断念が報じられたのは2019年7月、ちょうど1年前のことになる。東京からのリモート化を中心にシステム構築を目指したが、結果失敗した。それが、コロナ禍の中、数多くの企業で短期間にいとも簡単にリモートワークが普及している。
 もともとリモートワークを実現するためのITアプリケーションは数多く存在していた。今や小学生ですら知っているZoomやLINE、それにGoogle Meet、Microsoft TEAMSなどは既に実用化されていたし、その性能は大きく改善され続けていた。ではなぜ今までリモートワークがそれほど普及していなかったのか?その理由を簡単に言ってしまうと、「意思決定できる人が本気で使おうとしなかったから」と断定したい。
 「対面で話をしないと会議はできない」
 「講義、授業は教室を使わないとできない」
 「紙の書類でないと読まないし、はんこは押せない」
 過去にIT化を進め得た組織は、ほとんどの例外なくトップダウンでこれら古い常識を覆してきた。それが、今回のコロナ禍で、トップの意思が入らないまま、否応が無くリモートワークが進むことになったわけである。ビジネスにとって情報がフレキシブルに移動することは重要であるものの、そのために人や紙が動く必然性が、実はほとんど無いということを多くの人は気が付くことになった。

働き方の変化

 アイ・ティ・アール(ITR)は5月12日、「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」を発表した。それによると、コロナ禍における各企業の対策がIT戦略遂行の加速要因になっている。中でも「従業員の働き方改革」が最も重要なIT戦略テーマの一つになるとした企業が3分の1にも達したらしい。「働き方改革」という言葉を最近は耳にする機会が少し減ってはきていたものの、コロナ禍を契機に改革への意識は大きく前進しているようだ。
 「働き方改革」では、もともと「時間や場所にとらわれない働き方」を実践することが重要だと言われてきた。今回それとは別に「人との物理的な接触にとらわれない働き方」も併せて実践されるようになったといえる。「時間と場所にとらわれない働き方」の最たるものはリモートワークになるが、「人との物理的な接触にとらわれない働き方」が可能にしたものは営業の活動にある。
 今まで営業活動では、補助的にリモート機能を使うことはあったものの、主たる営業の手段としてほとんど使われていなかった。それは従来の商習慣では、買い手側では、買って欲しければ足を運べという意識が強く、売り手側では、相手に直接話をしてから初めて営業活動が始まるとの意識があったからであろう。しかし、それがコロナ禍で対面が敬遠され、リモートでなら説明を受けてもいいという営業の現場が増えているという。
 このことは従来の足を使って稼ぐ営業活動とは全く観点が変わって、ネットを有効に活用する営業スタイルへの移行である。そこでは如何に最初に話を聞いてもらえるか、次の機会を得るための注意を引けるかがより重要なポイントになる。そのためには、潜在顧客に対して通り一遍でなく、顧客ごとに細分化したアプローチを推し進め、タイムリーな顧客接点を持つことが必要になってくる。具体的には、顧客個人の立場を考慮しつつ、商談のステージごと、対面だけでなくメールやwebを使って情報提供をするなど、きめの細かいアプローチが必要になってくる。これら一連のしくみを効果的に機能させるには、ITをふんだんに活用することが求められる。
 ITを使うことで、時間と場所にとらわれず、今まで接点を持つことが難しかった人や組織ともつながることができる。そのため、従来では考えられなかった商圏を獲得できる可能性が生まれている。比較的リモートワークに適している企画や管理的な業務にとどまらず、これからは、営業活動についての「働き方改革」が大きく進展する可能性がある。

組織の準備不足

 しかし、今回、各企業でリモートワークを慌てて進めたため、問題も生まれた。多くの組織ではリモートワーク中の個人の成果を図りかねているし、情報セキュリティが不十分なままリモートワークを実施している企業が多いことも容易に想像できる。
 制度面からは、個人に割り当てられる仕事内容を明確にすることと客観的な成果に基づいた評価制度への見直しが進むだろう。リモート環境を恒久的に使い続けるためのIT環境の整備も早々に必要になる。また、紙の文化が根付いている組織では、社内・社外の文書化やワークフローへの取り組みが進むことになるに違いない。

変化に乗じる

 一度市民権を得てしまったリモートワークは、コロナが終息してもその流れは終わらず、新しい仕事、新しい社会のあり方を示すことになる。もちろん、人と人とのつながりがすべてリモートで代替できるわけではないが、代替できるものが実はかなり多いということが今回よく理解されるようになった。リアルな会合をリモートで代替するだけでなく、人と人との接触を、効率よく、生産的に、そして、物理的な距離にとらわれることがない有効な手段になると周知され始めている。そうして、働く環境やビジネスそのものに関する考え方は確実に見直され、そのためのITツールが今まで以上に用意され続けるだろう。
 既存のパラダイムに捉われず、この状況を変革のチャンスと捉え、組織そのもののルールの見直しやIT戦略の見直し、そして、それらを実現するための人材開発に先手を打って対応していくことが何より重要になってくる。また、このコロナ禍を契機に、新しい付加価値を生むビジネスアイデアを展開しやすい時期が来ていると捉えるべきで、このチャンスは大企業だけでなく、中小企業にも同様にあることの認識は大事だろう。
 



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