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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

新たな中小企業支援施策
                                   T Y

アトキンソン氏とは

 今、菅首相に大きな影響力を与えている思われる人物として、デービット・アトキンソン氏がいます。アトキンソン氏(以下氏と記載)は、イギリス人でオックスフォード大学を卒業後、アンダーセン・コンサルティング、ソロモンプラザーズ証券、ゴールドマンサックス等に勤務していましたが、2009年に日本の国宝や重要文化財を修復する企業である小西美術工藝社に入社し、今はその会長兼社長を務めています。また、日本政府の観光局の特別顧問(正確には独立行政法人国際観光振興機構の特別顧問)も務めている人物です。氏は菅総理の就任まもない9月25日に、総理とホテルで朝食をとりながらの面談もしています。
 氏は、はやくから観光業の振興(インバウンド)を提言していましたが、最近主張しているのが、中小企業の定義の見直しと最低賃金の引き上げです。 9月5日の日本経済新聞とのインタビューで当時官房長官であった菅総理が、それらについて言及して話題となりましたが、氏の影響を受けているのではないかと思われます。(インバウンドの拡大も、菅総理の官房長自体の大きな成果のひとつです)
 氏の持論である中小企業の定義の見直しと最低賃金の引き上げについては、マスコミ等で「中小企業の再編や淘汰であり、中小企業の切り捨てではないのか」等、いろいろと否定的な意見が述べられたためか、10月16日の国会での菅総理による所信表明演説では触れられてはいませんでした。しかし、氏は国の成長戦略会議のメンバーであり、所信表明演説の行われた同日に開催された第1回成長戦略会議でも氏から提出された資料が使用されています。

アトキンソン氏の主張について

 氏の最近の主張を私なりに簡単に説明すると下記の通りとなります。
   参考「日本企業の勝算」アトキンソン著 東洋経済新報社 2020年

@ 日本の課題は、企業が弱いこと
A 企業が弱いのは、生産性が低いことが原因
B 生産性(特にサービス業の)が弱いのは、その企業規模が小さいから
C 企業規模が小さいのは、国の施策が中小企業を保護してきたから
D そのため中小企業施策(中小企業の定義等)の見直しや、最低賃金の引き上げを行う必要がある
(これらは第1回成長戦力会議での氏のペーパーにも記載があります。また、最低賃金の引き上げについては、菅総理の著書の「政治家の覚悟」の冒頭のはじめにでも述べられています)

  氏の主張に対する私の見解を記載すると以下のようになります。
   (→部分が筆者意見です)
@ 日本の課題は、企業が弱いこと →日本企業に元気がないのは理解できます
A 生産性が低いことが原因 →日本企業の生産性の低さは昔から言われています
B 生産性が低いのは、その企業規模が小さいから →規模の大きな企業より、規模の小さな企業のほうが、効率性が低くなるため生産性が低くなるのは理解できます
C 企業規模が小さいのは国の施策が中小企業を保護してきたから
 (氏の著書では、中小企業に対する優遇策があるため、中小企業が、中小企業基本法に定める中小企業の定義の基本金等を超えて成長しようとしないことを、日本やヨーロッパの事例を紹介して解説しています)
 →資本金や規模が中小企業の定義の数値に近い企業ではそういったこともあるかもしれませんが、大部分の中小企業には関係ない話ではないでしょうか
D 中小企業施策(中小企業の定義等)の見直しや、最低賃金の引き上げを行う必要がある
  →現在の支援制度が制度疲労していることは間違いなく、見直す必要はある
   最低賃金の引き上げについては、それが企業の生産性を向上させるかどうかは疑問です 

今後について

氏の言うように、従来の中小企業支援施策が現状にあったものではなく時代遅れとなってきているということは間違いないのではないでしょうか。いままでの支援策は本当に効果を上げてきたのでしょうか。例えば、長年にわたって商店街の活性化が叫ばれてきて、いろいろな施策がとられてきましたが、それらは成果をあげたのでしょうか。 氏は、米(農家)政策において、生産者保護をうたっていろいろな施策をおこなってきたが、結局、成果を上げることができなく、最終的に減反等も廃止となっている事例を挙げて、中小企業支援策も同じようなものだと述べていますが、私としては共感できるものです。特に現在の日本の中小企業は、企業数が大幅な減少傾向にあり、経営者も高齢化し、後継者がいない等の大きな問題を抱えています。(参考 2020年度中小企業白書) 
そのため、それらを解決するためには、中小企業施策の抜本的な見直しが必要ではないでしょうか。ただし、それは決して中小企業を切り捨てるといったものではなく、中小企業を「守るべき企業」と「育成していく企業」等に区分し、それに適した対応をおこなっていくことが重要ではないでしょうか。
 冒頭にも記載しました成長戦力会議では、年内にも中間報告が行われる予定です。今後、その動きに注目していく必要があります。



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