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神戸を中心とした地域社会に貢献するNPOビジネスアシストこうべ

SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

起業・兼業・複業のススメ〜人生100年時代の働き方〜
                                     丹後和也


はじめに
 私の書棚に一冊の本があります。「就職しないで生きるには」。1981年晶文社初版のこの本の題名は40年前、就職活動に臨む、大学卒業前の私の気分をとても良く表しています。およそ人づきあいが苦手で、他者に頭を下げることの大嫌いな私が、普通に会社員として世の中を渡っていくことなどとても無理だと考えていた・・・。
 けれど、貧乏人の小せがれの私に当時、自分自身を養う選択肢は他になく、ご縁をいただいた流通企業に定年になるまで勤め上げ、その後自営業として独立し、今、このエッセイを書こうとしています。

独立への経緯
 学生時代に社会派弁護士を志していた私は、当時の自分の努力・能力が足りず、環境も許さず、試験に挫折し、就職したスーパーマーケットでお魚売場担当者として、キャリアをスタートしました。職人気質の職場で、上司・先輩に怒鳴られ、魚のアラとうろこにまみれて11年現場で仕事をしたのちに、物流部という本部部署に異動することになりました。ちなみに「資格オタク」の私が初めて取得した資格はこの時代に獲った調理師です。
 現場にいるときには朝の7時前から夜の19時過ぎまで、休憩もほとんどとれないで、息も絶え絶えで、仕事をしていたのに、配属された物流部では9時から17:40分の定時で終業することができ、休憩もとれ、デスクワークの為、体力も温存できていました。
 この環境を得られたときに私の心に沸き上がったのは、同じ企業なのに、部署間であまりに違う待遇の格差への怒りと、もう一度勉強したいという猛烈な思いでした。その後、結果的に本部部署を様々に異動しながら、20年間過ごすことになり、この間、30代を中心に宅地建物取引主任者、社会保険労務士、中小企業診断士、キャリアコンサルタントなどの資格を取得しました。
 そして、中小企業診断士仲間と2006年にこのNPO法人ビジネスアシストこうべを設立し、中小企業の経営者を実際に支援させていただくとともに、キャリアコンサルタントとして、学生・社会人の方の支援をさせていただき、そこで得た経験と人のつながりが現在の仕事に結びついています。

起業・兼業・複業への追い風@ 厚生労働省モデル就業規則の改定
 本業の流通企業での業務を行いながらも、心の中にはいつも「組織の言われるままに、あれをしろ、これをしろと言われ続けるのは嫌だ。いつかは自分の思い通りに仕事がしたい」と考え続けており、その実践の場として作ったのがNPOでした。当時の状況では、企業に勤めながら兼業することは、発覚した場合、企業からの制裁を受けかねず、その隠れ蓑とし「報酬は受けておりません。あくまで地域貢献です。」と言い逃れのできる利点もNPOにはありました。
 けれど、現在、企業人が企業に勤めながら、起業・兼業・複業を行う環境は大きく好転しています。一番の変化は少子・高齢化のもと、労働力人口の減少が続いており、国としても、サラリーマンが兼業・複業することを認める方向に舵を切ったことです。
 そのことは、企業と労働者のルールを定める就業規則のひな形、厚生労働省のモデル就業規則が2018年に改正されたことに典型的に表れています。そこでは「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」と明確に規定され、会社が副業・兼業を禁止・制限することができるのは「@労務提供上の支障がある場合 A企業秘密が漏洩する場合 B会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 C競業により、企業の利益を害する場合」のみであるとされています。
 つまり、それ以前のように、副業・兼業を会社に黙って行ったがために、解職などのあからさまな不利益変更はできなくなったと言えます。
 今では、働く選択肢として、企業に勤めながら、自ら起業し、また兼業・副業もできることが許され、起業の仕方としても、株式会社だけではなく、個人事業・一般社団法人・NPO・労働者協同組合など様々な選択肢が用意されているのです。

起業・兼業・複業への追い風A IT環境の充実
 グーグルの会長エリック・シュミットの著書「第5の権力」では、立法・司法・行政・報道機関という4つの権力に対して、現在では個人がオンラインでつながり誰でも「第5の権力」を手にすることができると記されています。
 今は当たり前のように、Facebook、Instagram、X(旧Twitter)、YouTube、TikTokなどのSNS、簡単に作成できるホームページやブログ、低コストで運営できるECサイト構築サービスなど、「低コスト・低リスク」で自分自身のメディアをもつことができる環境が整っています。つまりこれらを活用して、やる気さえあれば自らの起業・兼業・複業を「スタート・スモール(小さく始める)」ことができる時代が訪れているのです。
そして実際に、名もない個人が色んな分野で脚光を浴びる例がたくさん出てきています。

自分らしく働くために
 自分自身の志・やりたいことと生業・生活を一致させたい、自分の人生を自分でコントロールし、自分らしく生きていきたい。私は60歳手前で初めて、その境遇を得ることができました。本当はもっと早くスタートしたかったけれど、人生100年時代と言われる今、決して遅すぎたとは考えていません。
 私の場合は資格というものを活かして、この環境を手に入れましたが、人それぞれにやりたいこと、得意なことでそれは可能であると考えます。
 絵を描くことが好きな人、音楽が好きな人、料理が好きな人、自分の手でアクセサリーを作るなど手作業が好きな人等々・・・・。まずは身近に発信してみて、仲間を作り、兼業・複業をステップとして、独立に至る、そこからまた学生に戻っても良い、そんなことができる時代に私たちは生きています。
 大切なことは、やり続けること。嫌なこと、悔しいことは必ずあります。
 私も資格ばかりたくさん取って、出世もできずにくすぶっているのを「所詮、資格なんて足の裏についた米粒みたいなもんやな」と馬鹿にされたことが今でも心に残っています。「その心はー『取っても食えない』」というもので、一瞬「うまい!」と思ったのですが、言い知れぬ口惜しさと「絶対見返してやる」と闘志がわいた記憶です。
 私は弁護士にはなれなかったけれど、中小企業診断士・社会保険労務士・キャリアコンサルタントとして、士業として「自分の専門知識で世の中に貢献したい」という想いは実現できたと今考えています。
 そのように若かったころの夢が形を変えて実現することは多いのではないでしょうか?
これを読んでいただいた方に心からエールを送ります。
 いくつになっても、いつでも、心からやりたいことをやり続けていきましょう! わたしもあなたもそれぞれの場所で頑張って参りましょう!


NPO法人 ビジネスアシストこうべ