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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

製造業における新規事業の立ち上げのためのアドバイス
                                        千里


 アベノミックスの3本の柱の一つに成長戦略を上げられています。この戦略の基本は、将来性のある分野を政府が提示し政府主導による積極投資を行い民間の追従を促す戦略。競争を妨げている規制を撤廃し、新規参入者を増やし、市場を活性化する戦略。TPPのように国際展開で市場開放を促し、市場の拡大を図る戦略などが中心になっています。しかし、これらは、中長期的な戦略であり、まだ、具体的な姿が見えてきません。現実の市場の中で活動している中小企業にとっては少し物足りません。

1.ヒト、モノ、カネの不足をどうするか

 ヒト、モノ、カネが不足している中小企業では積極的な成長戦略は立てづらく、当面は現市場の維持が最優先で可能ならば今の市場拡大を目指すしかありません。ただ、これでは、将来への布石がなく、ジリ貧であると心配されている経営者も多いと思います。また、新市場ができる機運はわかっているが、それに対応する技術もない、開発費もない、研究者もいないと、諦めている経営者の方もいると思います。このような場合、どうすれば、事業化まで持ち込めるかについてのひとつの方法を提案したいと思います。

 この方法として、国の研究開発支援制度の利用があります。ただ、一般に、これらの制度の活用に関して事務手続きが煩雑で研究より手間がかかったり、技術開発は会社側だけの責任になったりして、中小企業には使いづらいシステムと言われています。確かに、そのような一面はあります。しかし、自社にあった制度を探し出し上手に使用することでさまざま効果が得られます。ここで、公的な研究開発支援制度の上手な使い方についてお話したいと思います。

2.研究開発に関する公的支援について

 まず、国の企業に対する研究開発の支援制度にはいろいろあります。支援の方法で異なりますので、何を選択するかは、目的によって変わってきます。
   @基礎研究に対するもので産官学共同研究
   A応用研究から実用化試験に対する開発費補助
   B革新的な事業への支援   
 などで、関係省庁で分けると、
   @経済産業省
   A環境省
   B文部科学省
   C農林水産省
   D地方自治体等
 まだほかにも数々あります。

 どの支援を受けるかの選択のポイントは、
@  事務手続き、報告書の煩雑さ
A  研究費支援だけでなく、人的な技術支援が受けられるかどうか
B  将来への発展的な開発が継続できるか
 です。@の事務手続き、報告書の作成は公的資金の支援を受ける以上、報告の義務があり必要ですが、これが、度を過ぎるといろいろな書類作成が煩雑になり、研究より資料作成にかかる時間が多くなる場合があります。注意が必要です。
 Aの研究費支援だけで、開発は企業まかせになると、広範囲な基礎研究などができません。大学の研究者や、コーデネータ(技術仲介者)がある支援がよいです。Bは公的支援制度に受けることで、社内に外部の開発の流れが入ってきます。これは社内へのよい刺激になります。すなわち、将来の自社の研究開発体制を見据えた活用が有効です。

  以上のような点を考慮し、それぞれの支援制度の特徴を掴み、自社にあった支援制度を探してください。

 3.活用方法

  ひとつの例として、私が利用した科学技術振興機構(JST)の支援制度を例に活用方法を紹介します。

 この支援制度は、大学等で生まれた研究成果を基にして、企業と実用化を目指す研究開発を対象とした支援制度です。大学等における研究成果の中に潜在している特許等の技術を企業の視点から掘り起こして、事業化向けて大学と企業が二人三脚で開発を進めます。開発の段階により数々の支援制度が準備されていています。初期の開発フェーズから、実用性を検証する中期のフェーズ、さらには製品化に向けて実証試験を行うために企業主体で企業化開発を実施する後期のフェーズまでそれぞれの研究開発フェーズの特性に応じた複数の支援タイプがあります。開発段階に即した適切な支援を受けることができます。 研究期間は1-4年で、研究開発費の支援は探索的検討の段階で800万円、さらに事業化を進める検討の場合最大2億円で最長4年支援してくれる制度です。

 この制度は中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律に基づく中小企業技術革新制度(SBIR)の特定補助金等交付事業に認定されています。 当該補助金等を受けた中小企業者は、その成果を利用して事業活動を行う場合に、特許料等の軽減措置、信用保証協会による債務保証枠の拡大、担保と第三者保証人が不要な特別な債務保証枠の新設、中小企業投資育成株式会社法による投資対象の拡大等の特例の支援措置を受けることができます。

 詳細な内容は、科学技術振興機構(JST)の支援制度のA-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)をご覧ください。 URL http://www.jst.go.jp/a-step/outline/index.html

4、企業の活用の心構え 技術の絞込み

 これらの支援システムを活用するに当たり、成果を最大限にするためにはそれなりの注意事項が必要です。これを間違えると、事務手続きの手間ばかり多くて成果が上がらないことになります。

 そのための企業側の注意事項としては、つきの点が考えられます。
   @ 開発すべき技術を明確にする。
 企業側のポイントとして、まず、達成すべき事業目標に対して、必要な技術は何か。そして、自社に不足している技術は何かを十分把握し、開発すべき技術を明確にすることが重要です。

   A最適な基礎技術を探索する。
 開発すべき技術が決まれば、希望する技術を持っている大学の探索ですが、JSTでは定期的に紹介する場を設けていて、これで関係ある技術を知ることができます。さらにコーディネーターという技術の専門家がJSTにおられ詳細な情報、大学とのコンタクトについてのアドバイスを貰うことができます。

   B大学との共同研究の進め方。
 しかし、実際には、先生とよく話をして、会社の欲しい技術がどこにあり、先生の技術との差を明確に特定し、この差を埋めるための研究方針を十分共有することが大切です。あくまでも、先生の研究に協力するのではなく、事業化のために共同研究を行う姿勢は企業側には必要なことです。

 一方、最近の大学は独立行政法人となり、従来のように、直接講座に研究費が支給されるのではなく、大学の先生自らが研究費を取ってくるシステムになっています。つまり、自分の研究成果を使用しさらに開発してくれるパートナーを探し、国の開発事業に参画したり、企業との共同研究を行ったりすることで研究費を貰う形になっています。このため、大学の先生は専門の研究だけ行っていればよいとの従来の姿勢から、積極的に、自らの研究成果を事業での活用を推進するようになり、企業の研究成果の活用は強く望まれています。企業側も発明者と共同で事業化向けた検討ができ、しかも開発経費が受けられるようになります。両者にとって有益なシステムと思われます。

  C社内体制をつくる 
 社内体制の整備としては、公的資金を貰うための手続きが多数あります。往々にして、研究者にこの雑務が集中する傾向があり、本務の研究を妨げることになります。この事務手続きを行う事務部門の担当者を決めておけば効率がよくなります。開発部門が先行するのではなく、事務、経理部門を巻き込んだ体制を作れば安心です。

5.大きな副次的効果がある。

  ・社内の研究の活性化
 開発部門が専門分野で大学の先生と一定期間指導を受けられるようになります。目的が明確なため、先生と突っ込んだ技術的な解決策の話ができ、新たな発想を貰い、新鮮な刺激が得られます。特に、長年同じユーザーと開発を行っている場合、開発方法が画一的になり、ダイナミックな発想を抑制する思考が働きます。こうなると、開発ではなく小手先の改良になってしまいます。是非、大学との窓口には若手技術者を担当者として置いてください。

  ・新入社員のリクルート
 大学との共同研究を一緒にすることで、大学の先生、学生に自社の事業内容、方針をよく理解してもらえ、自社に適した良い人材の紹介が期待できます。このような形で入社した技術者は会社の大きな戦力になっています。 

 以上、公的資金の技術支援の利用方法を述べましたが、会社を維持し継続的に発展させるためには、目先の安定志向では難しいです。新たなチャレンジが必要です。そのときのリスクを少しでも減らす為に、このような制度の利用も考えてみてください。 


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