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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

中小企業における顧客の声への対応
                                        KO

はじめに

 今年7月、某大手メーカーの化粧品によって多くの有症被害が発生するという事件が発生しました。弁護士による第三者調査報告は、被害が拡大した原因として事なかれ主義の組織風土を指摘しています。もっと早く経営トップまで情報が上がっていたら、もっと早く判断ができていれば、被害がここまで拡がることはなかったと考えられています。
 顧客の声にどのような対応するかという観点から、中小企業にとっても学ぶべきことが多い事例ではないでしょうか。

情報の収集の難しさ

 顧客の不満足の声は必ずしも企業にフィードバックされるわけではありません。顧客の不満の大きさやパーソナリティによって、その情報が発信されるかどうかは異なります。さらに今回の事例では、体調など個人の事情や因果関係がわからないこともあって被害があっても声を発しなかった人は大勢いたでしょう。
 また、顧客の声は、人を介して収集されます。受け手側が顧客からの情報をどのように捉えるかは実は企業によって大きな差があるのではないでしょうか。今回の事例では、多くの問い合わせを利用者の特殊事情と処理してしまったようです。
 「苦情“0(ゼロ)”」を事務所に掲げる店舗や工場をみかけます。顧客の声に耳を傾け、商品やサービス改善し続けることは大切なことです。その結果として「苦情“0(ゼロ)”」が実現できたのだとしたら、とても素晴らしいことです。しかし、「苦情“0(ゼロ)”」を目標にして顧客の声に耳を塞いでしまっては元も子もありません。顧客の不満足の声を減らすことと、顧客の声に真摯に耳を傾けること、このバランスは実は非常に難しいのです。

情報の共有化の難しさ

 なぜ多くの被害情報がトップまで上がって来なかったのでしょうか。顧客の声が上手に収集できたとしてもその情報を組織として共有化できるかどうかはまた別の問題です。今回の事例でも、該当企業では「顧客対応システム」を導入していました。該当企業がこのシステムをどのように使っていたかを知るすべはありませんが、システムを導入し情報をデータとして集約していることと、情報の共有化は同義ではないことは確かなようです。
  企業の不祥事では、必ずその重要な情報が経営トップまで上がっていたかどうかが問われます。しかし、本来は組織として、また経営トップとしてどのような情報を共有すべきと考えていたのかが問われるべきなのではないでしょうか。

顧客の声への対応の段階

 顧客の声への対応には以下の3段階があります。

@    「顧客への一次対応」の段階
  不満足を申し出られた方の満足を追求する段階です。顧客が何を求めているかを聴き取り、それへの対応が最も大切になります。

A    「品質の改善」の段階
  品質や接客における不満足の原因を追究し、品質や接客の改善を図ります。不満足を申し出られた方ばかりではなく、顧客全体の満足を追求する段階です。

B    「事業への反映」の段階
 経営視点で顧客満足を追求する段階です。経営者自らが顧客の声からヒントを得て、事業方針を検討します。Aの段階は顧客の要望に対して、どれだけコストをかけられるのかという視点にあります。Bの段階は顧客の要望を満たすことによって企業の収益改善につながるという視点にあります。

 
せめてAの視点があれば、情報収集の難しさ、共有化の難しさを乗り越える原動力を得られると思うのですがいかがでしょうか。

最後に

 今回の事例を通して、顧客の声を収集し、共有化する、そしてその声に対応することは、企業として顧客に向き合う姿勢そのものをあらわしていると強く感じました。組織として、経営トップとして顧客の声にどう向き合うのかを示すことこそが、顧客の声に対応する組織をつくることにつながると考えます。

NPO法人 ビジネスアシストこうべ