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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

創業の思いを伝える試み
                              中小企業診断士 松田良一


 経営者へのインタビューや企業の取材内容を見聞きすることは面白く、録画を視聴するのが楽しみでもある。
取材によりビジネス成功への道のりを知ることはそれだけでも意味があると思うが、最近は創業の心、理念について関心があり以下に思うことを述べてみたい。


1.創業における経営者の心〜事例
 新規採用の社員として長きに渡って勤務した会社を2年前に定年退職した。創業は昭和6年(1931年)で創業者は既に他界されている。会社の歴史には記録されていないが、入社して驚いたことのひとつが社員の誕生日お祝いである。創業者(当時の社長)が全国に百人を超えていたであろう社員一人一人に誕生日プレゼントを配り、お祝いのメッセージを一言伝えることが行われていた。会社の求心力の一つであった。
 また、最近外食産業の株式会社ハイディ日高についてTV放映されていた。この会社では社員数617人に対してパート・アルバイト数は6600名にのぼる。会社ではパート・アルバイト従業員を「フレンド社員」と呼び、創業者である現会長が全国の各事業所で年に一度「フレンド社員感謝の集い」を主催している。集いの中で対話し、感謝の言葉を述べ創業者の気持ちを伝えている。

2.創業の思いを伝えること・・・事業後継者への課題
 前記の事例はいずれも経営理念の文書化とは別に、社員との対話の場を設けることにより自分の言葉で語り従業員との交流を具体化している。しかし最初の事例では後に会社の規模が拡大し(正社員800名、パートタイマー2000人)、別の経営者に引き継がれてから次第にその習慣がなくなっていった。後者のハイディ日高でも次世代、次々世代となると創業者と同じことを継続することは容易とは思われない。理念を文書化すれば形は残るが、創業者が事業を始めたときの気持ちとその心を反映した行動(事例として挙げた誕生日お祝いやフレンド社員感謝の集いなど)は形として残らないため、文字通り一心同体のパートナーでもない限り継続しづらい問題ではないかと思う。

 もう一つの事例を紹介する。この会社は同族会社で創業者が明治生まれで昭和生まれの長男(現社長)が事業を承継した。承継した社長が外部からのコンサルティングもあり経営理念を作成したが、経営者とその同族の取締役が自ら理念を解釈し社内外へ発信したり、従業員への働きかけを積極的に行うことはなく地に足がついていないように思える。

3.創業理念を引き継ぐ経営者へ期待されること
 創業の思いを経営理念として作成し、文書化することで会社の存在理由を明らかにして社内の求心力を高めることの重要性は経営者にとって不可欠と言える要件である。
 惜しまれるのは経営理念が形骸化し創業の思いが伝わらない企業も意外に多いのではないかということである。創業時は家業的な組織形態で出発し、創業者の人生そのものが経営理念の背景となる場合は特に追体験が難しいと思われる。創業者の属性は引き継ぐ要素にあてはまらないともいえよう。
 一方でダイキン工業株式会社においては創業者ではない現会長がグループ経営の理念を作成しHPで公開されている。ダイキン工業鰍ナは会社の「働く一人ひとりの誇りと喜びがグループを動かす力」という経営理念を伝えるため新入社員の研修は砂丘のある研修所で幹部社員と新入社員との交流と対話に多くの時間を割き、またビジネスそのものではないが若手社員が責任者となり会社の近隣地区のお祭りを企画・実行することを理念実践の場としている。

 経営理念が形骸化している企業もあるが、この事例のように引き継がれ発展されている会社もある。目に見えないだけに組織への影響度や効用が実感しにくいのであろう。

 創業の心、理念を具体的に伝える場を持つ会社では従業員はその組織で働くことに幸福を感じている。その幸福感が組織の活性化、やる気を引き出していることは間違いなく事実ではないだろうか。

NPO法人 ビジネスアシストこうべ