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SMECアイ−診断士の視点−ESSAY

中小企業経営者の保険2 パート1
〜 リスク・事業承継に備え 節税しつつ 退職金を貯め 従業員の福利厚生を 〜
                                    摩虎羅大将


 
前回、「中小企業経営者の保険」をここに掲載してから8年が経ちました。より総合的に論じることで大幅に内容が充実できることや、状況が変化している事柄もあるので、再論に及びました。テーマは、中小企業経営者によく利用される保険・共済です。

概要
1.経営者に有利な共済・税制が存在する理由(事業継続、従業員の幸福) 
2.法人税を節税しつつ、役員報酬より有利な社長の退職金の原資を作る
3.小規模企業共済 ~ 社長の退職金の原資を作る ~
4. 長期平準定期保険 → 税制優遇が実質的になくなる、大きな税制の変更!
5. 逓増定期保険 → 税制優遇が実質的になくなる、大きな税制の変更!
6.中小企業倒産防止共済 ~ 連鎖倒産に備え 社長の退職金原資にも ~
7.法人契約の社長の終身医療保険 ~ 個人への終身医療の現物支給 ~
8.社長個人契約の後継者受取人の生命保険
9.全額損金の定期保険や収入保障保険 〜 社長死亡のリスクに備える ~
10.【閑話休題】 海賊を守る!?海賊保険 → 後日、別稿にて掲載予定
11.従業員の退職金制度 ~ 退職金規定と従業員退職金の原資作り ~ 
12.中小企業退職金共済
13.ハーフタックスプラン 〜 従業員の為の養老保険 ~
14.確定拠出型年金(401K)
15. 法人契約の従業員の医療保険 〜 福利厚生 ~

本稿パートTでは1.〜5.までです。それ以降は次稿(パートU)以降となります。

1. 経営者に有利な共済・税制が存在する理由(事業継続、従業員の幸福) 

@リスクから、中小企業が守られ、事業が継続されることで、雇用が守られ、経済が発展する。
A従業員の福利厚生が高められることで、従業員の幸福につながる。それにより、従業員が定着することで、中小企業の経営も安定する。
等のことが実現される事で社会全体が良くなるからです。

法人契約の社長の生命保険の加入は85%。平均加入は2件で、加入目的は以下となっています。
@77%が死亡退職金の準備
A53%が社長死亡時の運転資金確保
B41.6%が社長の退職金準備
C35%が節税対策。

備えるべき将来の支出やリスクは以下等です。
@経営者の死亡
A緊急時の運転資金の不足
B経営者の退職金の支出
C後継者の事業承継
D経営者の病気
E従業員の退職金の支出

2. 法人税を節税しつつ、役員報酬より有利な社長の退職金の原資を作る

 3.~6.は損金算入により、法人税を節税しつつ、役員報酬より税制が有利な退職金(社長分)原資を社内に蓄積出来る制度です。
 経営が順調になり、利益がしっかり出るようになったら、それを全て(高い法人税を払い)役員報酬にして社外に出してしまうのでなく、1.の@〜Dのような、会社の将来に備えるために、蓄積を行ったり、保険でリスクヘッジを行ったりするべきです。そのような行動を奨励するために、有利な共済がつくられたり、損金算入(法人税非課税)が認めらたりしています。
 これらの制度の利用は
@法人税の節税効果
A事業承継時の後継者の自社株式取得資金の不足時の、自社株式評価の引き下げの効果
などをもつものがあります。

3. 小規模企業共済 ~ 社長の退職金の原資を作る

 中小機構の小規模企業共済は小規模企業 (5〜20人以下:業種による)の経営者の退職金を有利に用意できる国が運営する共済(個人加入) で、133万人加入:41%の加入率です。

メリットは以下等です。
@掛金は 社長の所得税が非課税。
所得1000万円なら、月7万積立で年36.7万を30年(例1)で1101万円の節税。
A会社の場合、掛金は役員給与として法人税計算でも損金算入される。
B掛金限度まで、0.9〜1.5%の低利ですぐに契約者貸付が受けられる。
C月7万円を30年(例1)掛けると、65才以上で2948.26万(17%増)受け取れる。
節税効果1001万を勘案すると61%増となる。

注意点は以下等です。
@半年以内は共済金も0円。 1年以内の解約手当金は0円。
 解約手当金は、20年で100%に達する。
A掛金を減額すると減額した分は全く運用されない。
 減額は推奨出来ないので、初めから無理のない掛金設定をする。

4.  長期平準定期保険 

 7年前、このコラムに掲載した「中小企業経営者の保険」において論じた長期平準定期保険と逓増定期保険は、有利性を大きく減少させる税制の変更がありました。節税効果が大きかった税制優遇措置は実質的に消滅しました。
 長期平準定期保険は保険期間が100才まで等、とても長い社長の生命保険です。
40才位までの若い経営者なら、退職の前後の10年位の長い期間、90〜100%近い解約返戻金が得られました。その1/2の損金算入が認められていました。
 しかし、2019年7月8日からの税務改正で、解約返戻率を100%とした場合では、初めの10年は1/10、その後3/10の損金算入となりました。
 改正前に加入した分に対しては、遡及されないので、有利性は保たれます。しかし、退職金の原資としての貯蓄目的で、新たに加入を検討するには、節税効果は大幅に減少したことは否めません。 

5.  逓増定期保険(ていぞうていきほけん) 

 逓増定期保険も、長期平準定期保険と同様の、有利性を大きく減少させる税制の変更がありました。
 逓増定期保険は、長期平準定期保険より期間が短く、生命保障が期間の最後で5倍等に増えます。長期平準定期保険と同様に、貯蓄性を持ち、かつ、定期保険の税法上のメリットがありました。退職時期をターゲットとして短期間で含み益を作り、解約返戻金を退職金支払いの時期に解約によって資金を活用することができました。
 しかし、2019年7月8日からの税務改正で、長期平準定期保険とほぼ同様の改正がなされました。改正前に加入した分に対して遡及されない点も同じです。長期平準定期保険と同様、退職金の原資としての貯蓄目的で新たに加入を検討するには、節税効果が大幅に減少したことは否めません。

 これらの保険・共済は経営者と従業員の生活設計を支援しながら、国の補助や、税制面の優遇がある(近年、税制優遇が実質的になくなっているものもある)ので、利用目的を明確にしながら、上手に利用して下さい。

 本稿は2018年8月と2019年10月にビジネスアシストこうべにおいて行った「中小企業経営者のための保険」セミナーを再構成、加筆修正したものです。


参考文献:
株式会社タックス・コム発行 小山 浩一著「中小企業のための保険講座」 
株式会社セールス手帖社保険FPS研究所
「経営者従業員のためのデータ集ーマネジメントデータ&ガイドー」
岩波新書 増田 義郎著「略奪の海カリブ」 
参考インターネットサイト:
中小機構ホームページ 
中小企業退職金共済事業本部ホームページ 
国税庁ホームページ
「法人保険の楽園」
「保険の教科書」(ファミリーコンサルティング株式会社)
「保険相談&見直し情報サイト 保険のビュッフェナビ」
「経営者のための生命保険コラム」株式会社汐留総合研究所
「B−PLUS 仕事を楽しむためのWEBマガジン」八木 昭浩
「保険工学」株式会社保険工学               


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